星と星団の形成

宇宙は星からできています。「いや、ダークマターやダークエネルギーが主成分だ」と宇宙論屋さんは言うかもしれませんが、多くの人にとって宇宙を構成するもっとも基本的な要素を問われれば、思い浮かぶのは星でしょう。星はどこで生まれるのでしょうか? これは宇宙の歴史のどの時期を考えるのかによって変わってきます。現在の宇宙においては、分子雲と呼ばれる銀河の中をぷかぷか漂う極低温の水素分子ガス雲が星形成の舞台になっています。しかしながら、低温のガス雲から何がきっかけで星が生まれるのかは実はまだよくわかっていません。本研究室ではスーパーコンピューターを用いた数値流体力学と呼ばれる手法で、分子雲の時間進化をシミュレートし、星形成の謎にせまっています。

星の中でも太陽よりも10倍程度以上重い星は大質量星と呼ばれて多くの天文学者の興味の対象になっています。大質量星はすごく明るいために観測しやすいだけでなく、その寿命の最後に超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こし、宇宙線と呼ばれる超高エネルギー粒子を加速したり、宇宙空間に衝撃波を発生させたり、爆発中心に中性子星やブラックホールといった興味深い天体を残したりする超目立ちたがり天体です。大質量星は目立ちたがり屋ではありますが希少なレア天体であり、その形成環境は謎に包まれていました。ところが近年の観測の進展によって、大質量星は分子雲が衝撃波によって強く圧縮を受けると生まれるということが明らかにされてきています。

そこで我々のグループは分子雲が衝撃波に圧縮される様子をシミュレーションで再現し、観測が示唆するシナリオの正否や、どういう条件下であれば大質量星が形成できるのかなどを調べています。下の図はマッハ数が100近くにもなる衝撃波が大質量星の形成をトリガーする様子を再現した結果です。衝撃波によって分子雲の内部に大質量フィラメントと呼ばれる高密度天体が形成されますが、それが磁気的超臨界に達すると一気に崩壊して大質量星を形成する様子が確認されました。右のパネルの中心部には太陽の100倍近い質量のガスが集まっており、大質量星の卵といえるような天体が実際に形成されています。


図: Inoue et al. 2019, PASJ, Vol.70, 53pp. より改変

星形成領域の中でも、星の原材料となる星間ガスが銀河衝突などを原因として超高速で圧縮された場所は、スターバーストと呼ばれるような激しい星形成現象を示します。観測されるような高速なガス衝突の計算は極めて難しいことが知られていますが、我々は観測されるような秒速100km/sにも及ぶ高速のガス衝突シミュレーションに成功しています。シミュレーションの結果、ガス衝突によって生じる衝撃波がガスを高密度に濃集し、超高密度な分子雲がまず形成されることがわかってきました。この超高密度な分子雲が短時間で重力崩壊を起こすことでスターバーストが発生します(下図参照)。このような最先端シミュレーションを行うために、我々はシミュレーションプログラムの開発も行なっています。上述したシミュレーションでは近代的な超大規模並列スーパーコンピューターで効率よく計算が可能なコードを開発・使用しています。


図: Maeda, Inoue & Fukui 2021, The Astrophysical Journal, Vol.908, 9pp. より改変