超新星残骸と粒子加速

星の中でも太陽よりも10倍程度以上重い大質量星はその寿命の最後に超新星爆発を引き起こすことが知られています。爆発時に生まれる最大で光速の10%にも及ぶ速い衝撃波はエネルギーが1ペタ電子ボルト(ペタは10の15乗でギガの百万倍)以上に及ぶ高エネルギー粒子の加速現場であると考えられています。地球には宇宙から常に宇宙線と呼ばれる陽子を主成分とする高エネルギー粒子が降り注いでいますが、超新星爆発で加速された高エネルギー粒子は宇宙線の起源ではないかと考えられています。下のムービーは超新星爆発で発生した衝撃波を伴う火球が星間空間を伝播していく様子をコンピューターシミュレーションで再現したものです。

しかしながら、超新星爆発が引き起こす衝撃波で加速される粒子の最大エネルギーがどれだけ大きくなれるのかは、未だに理論的にも観測的にも不明確であり、宇宙線の起源となり得るのかについて明確な結論が下せないでいます。この状況を打破するために、我々は宇宙線を構成する高エネルギー粒子を記述する相対論的無衝突ボルツマン方程式と、超新星爆発を記述する磁気流体方程式を同時に解くハイブリッドシミュレーションコードを開発し、超新星衝撃波における粒子加速現象をシミュレーションで調べています。

シミュレーションの結果、重力崩壊型超新星と呼ばれるタイプの超新星爆発では、爆発後のごく初期において1ペタ電子ボルトをゆうに超える粒子加速現象が発生することを明らかにしました。従来の研究では衝撃波の近傍において粒子を加速する磁気プラズマ波動の生成と、その振幅が不正確に仮定されていることがほとんどでしたが、我々が開発した新しい方法では大規模なスーパーコンピューターを高効率で使用することが可能になり、信頼性の低い仮定無しに粒子加速を計算できるようになっています。今後はブラックホールから噴き出すアウトフローに付随する衝撃波や、銀河団衝突に伴う超大規模衝撃波、銀河風の終端衝撃波などの諸現象における粒子加速現象のシミュレーションを行うことで、エクサ電子ボルトを超える宇宙線の加速機構を研究していく予定です。